物忘れ・認知症

物忘れについて

物忘れは、年齢を重ねれば少しずつ増えていくものです。ときどき物忘れがある程度なら、心配する必要はありません。
しかし、物忘れが増えているようなら、認知症の初期症状や脳の病気の可能性があります。認知症や脳の病気の場合は、なるべく早く検査し、適切な治療や予防をおこなうことが大切です。
物忘れには、大きく分けて、加齢による物忘れ・軽度認知障害（MCI）による物忘れ・認知症による物忘れ・疾患による物忘れがあります。

加齢による物忘れ

加齢によって記憶力が低下するのは、自然なことです。忘れていたことを時間が経てば思い出せる場合は、加齢が原因でしょう。
習慣的な動作などの日常生活に支障がなく、状況に応じて適切な判断ができる場合も加齢によるものだといえます。物忘れの多さを自覚している方や出来事の細部だけを忘れたような場合も、多くは加齢によるものです。
加齢による物忘れは、訓練によって進行を抑えることができます。

軽度認知障害（MCI）による物忘れ

MCIは、正常な状態と認知症のあいだのグレイゾーンだと考えられています。
記憶力や注意力などの認知機能が低下しているものの、日常生活には支障がない場合があてはまります。MCIが進行して認知症になる方もいますが、すべてのケースが認知症になるわけではありません。早めに対策をすることで15〜40%程度の方が正常な状態へと改善することがわかっています。また、認知症になるケースでも、早期対応によって発症を遅らせることが可能です。

認知症による物忘れ

物忘れが多いことを認識できない方やできごと自体を忘れてしまう方は、認知症による物忘れである可能性が高いです。
認知症の場合、記憶力に加えて理解力・思考力・言語能力・計算能力・判断力などの認知能力も低下します。習慣になっていたことができなくなり、これまでと同じように日常生活が送るのは困難です。日本では、高齢化に伴って認知症の発症者はますます増え、2025年には65 歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になるという報告もあります。なお、65歳未満で発症した場合は「若年性認知症」の診断になります。

疾患による物忘れ

脳神経外科的な脳疾患によって、物忘れが起こることもあります。この場合は、手術で治すことが可能です。たとえば、慢性硬膜下血腫・脳腫瘍・正常圧水頭症などは物忘れを引き起こすおそれがあります。

認知症について

認知症の特徴は、認知機能の低下によって日常生活や社会生活に支障が出る状態を言います。
たとえば、前日の出来事ですら忘れて思い出せないことが頻回に起こるなど、記憶力・理解力・思考力・言語能力・計算能力・判断力などが衰えた状態です。
正常な認知機能から突然認知症になることはほとんどありません。多くはだんだん認知機能が下がり、認知症になります。そのため、軽度認知障害の段階で発見して治療を行うのがポイントです。認知症は、大きく分けて4種類あります。

アルツハイマー型認知症

認知症のなかでもっとも多く、全体の60～70％を占めるのがアルツハイマー型認知症です。
アミロイドβやリン酸化タウなどのタンパク質が徐々に脳内に蓄積して、神経細胞に悪影響を及ぼすことによって発症します。時間の経過とともに進行し、65歳以上で発症する方がほとんどです。失認・失語・失行を伴い、睡眠障害・幻覚・妄想などが現れる方もいます。

脳血管性認知症

脳出血・脳梗塞・くも膜下出血などの脳血管障害により、脳の神経細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなったことで発症するのが、脳血管性認知症です。脳血管障害の進行とともに段階的に悪化します。同じことができるときもあれば、できないときもあるなど、症状に波があったり、感情をうまくコントロールできなくなったりするのが特徴です。

レビー小体型認知症

神経細胞中にレビー小体がびまん性に沈着し、ダメージを与えることから発症するのが、レビー小体型認知症です。
アルツハイマー型認知症よりも進行が速く、さまざまな症状が現れます。
識別力や注意力の欠如・記憶力の低下・幻視・妄想・うつ症状・パーキンソン症状・便秘・起立性低血圧・寝ているあいだの異常行動（レム睡眠行動障害）などが特徴です。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症するのが、前頭側頭型認知症です。発症しやすいのは50～60代で、ほかの認知症よりも低い年齢であることが特徴です。前頭側頭型認知症では、さまざまな症状が現れます。たとえば、同じ行動や言葉をくり返す、相手の言葉をオウム返しする、言葉が出にくくなる、他人に感情移入できなくなる、身だしなみを気にしなくなる、万引きをしてしまう、暴力や暴言が出るなどです。